開高健さんの本を初めて読んだのは開高さんが亡くなった年でした。亡くなってしばらくの間は、本屋の一番目につくエリアに開高さんの本が並んでいて、その中で面白そうな題名の本があるのが目にとまり、手にとってパラパラと数ページ読んでからレジに向かいました。それが「開高一番」というエッセイでした。
それからしばらくして、札幌駅近くの五番館西武というデパートで古本市をやっているところにたまたま通りがかり、やたら色鮮やかなカバーの本に目がとまり、誰の本かと手にとったのが、オーパ!という開高さんの本でした。「そう言えば、開高一番でも釣りのことが書いてあったなぁ」と思いながら、パラパラとページをめくってみると、なんだかとんでもなく面白そうな写真がいっぱい載っていたので、「これは面白いに違いない」と、オーパ!を買って帰りました。そしてその本との出会いが釣りと出会うきっかけとなりました。
オーパ!は開高さんがアマゾンでピラルクやドラド、さらにはピラニアなどを釣りに行った旅行記なのですが、それは単なる旅行記にとどまることなく、食について語るかと思えば、人間とはなんぞやと考えさせられる哲学的な要素もあれば、遊び心に満ちた要素もあり、もちろん冒険心溢れる内容でもある名著なのです。試しにネットで「オーパ!」と検索すると、私と同じように、この本に影響を受けた方のこの本に対する熱い思いをたくさん目にすることでしょう。
開高さんと言えば、食べ物に対して、まったりという表現を使い始めた人としても有名ですが、その語彙力は他の作家と比べても抜きに出ていて、その語彙力を巧みに使い、開高さん独特の表現、リズム感で三十数年前のブラジルでの体験が綴られています。もうひとつ、この本の魅力となっているのが、膨大な写真で、それだけ見ているだけでも十分に楽しめる内容となっています。
当然、私はすっかりオーパ!に魅了されると同時に自分も釣りをしたいと強く思うようになりました。
開高さんはルアーフィッシングにこだわった人で、それはルアーという偽物の餌を使って、いかに魚を騙せるかという腕が必要とされるからだという意のことを書いています。それを読んでから「釣りをするならルアーだ」と決めていました。さらに、北海道に住んでいるからには「最終目標は鮭を釣ること」と決めました。
そんな時に友人のI君に釣りの心得があると知り、I君と一緒にまずは石狩湾で餌釣りを経験してから、いよいよルアーフィッシングをするために定山渓ダムへ通うようになりました。狙いはニジマスです。ただ初めのうちはなかなかポイントがわからず、またルアーの動かし方が正しいのかもよくわかりませんでした。そこで釣りの本を読んでルアーの特徴や魚の生態を勉強したり、釣具屋でポイントの情報を仕入れてから釣りに出かけるようになり、ついにルアーでニジマスを釣ることができました。初めて釣ったニジマスは、30cm程度しかない小物でしたが、それでもルアーに食いついてからは跳躍したり、底にもぐろうとしたり、必死にファイトしました。私は魚が初めてかかった喜びに足がふるえながらも、魚の動きに合わせて糸を引き出したり、魚が休んでいる隙に慎重にリールを巻いたりという動作を繰り返し、なんとかそのニジマスを釣り上げることが出来ました。
そして、秋になり鮭が遡上を始めたことを聞きつけると、海へ通うようになりました。初めは、白老という札幌から90kmほど離れたところに通いましたが、全く釣れず、また周りの人もあまり釣れていなかったので、次に積丹に通うようになりました。
はじめのうちは、鮭を釣りに出かけるのは土日でしたが、なかなか釣れず、もたもたしていると鮭の遡上が終わってしまうという焦りから、平日も釣りに出かけるようになりました。札幌から積丹までは約80km。早朝というか未明に札幌を出て積丹まで行き、がっくり肩を落として札幌に戻り、そしてそのまま大学へ通うという日が何日かありました。焦燥感とどうしても鮭が釣りたいという気持ちから、いつしか「ルアーで」という手段は二の次になっていき、そしてようやく鮭を釣り上げることに成功しました。初めて釣ったのは、サンマの切り身を餌に使って投げ釣りしたものでした。そして2回目に釣ったのは、ルアーにサンマの切り身をつけたものでした。結局、釣れたのはこの2回だけで、純粋にルアーで鮭を釣ることは出来ませんでした。しかし、鮭を釣った喜びは大きく、釣った魚を石狩鍋にして仲間達と一緒に食べたことは、大学時代のよい思い出のひとつとなっています。
最近、久しぶりに、オーパ!を読み返してみましたが、初めて読んだ時から20年近く経った今でも、やはり名著だなぁと思います。そして、今、たまたま茅ヶ崎にある開高健記念館でオーパ!の企画展が開催されていることを知り、茅ヶ崎に行って来ました。ここは、開高さんがお住まいになっていた家を記念館としたもので、開高さんの原稿のほか、実際に使っていた釣り道具なども展示されています。
オーパ!の企画展は今日まででしたが、常設展示でも面白い資料がたくさんありますし、館員さんが、いろいろ丁寧に解説してくれますので、もし開高さんの作品や開高さんという人間に興味のある方は是非足を運んでみてはいかがでしょうか。
オーパ!の表紙
オーパ!の原稿
開高さんが使用したルアー
私が大学時代の先輩からブラジル帰りのお土産に貰ったピラルクの鱗。デカイ!