沢木耕太郎さんの大ファンというわけではありませんが、わりとこれまでに作品を読んでいるほうだと思います。
沢木耕太郎さんの代表作といえば、「深夜特急」だと思いますが、こちらは、自分がシンガポールに行こうと思ったときに、シンガポール付近のことが書かれた巻だけ読んだのみで、他はまだ読んでいません(ので、ファンとは言えませんね)。
沢木さんは、小説家であり、エッセイストでありルポライターであるなど、ジャンルにしばられることなく、様々な作品を発表しています。
私がはじめて読んだ沢木さんの作品は、「檀」で、それは私が檀一雄さんのファンであったからですが、それを機に沢木さんの作品を読むようになりました。
今回読んだ「オリンピア ナチスの森で」は、1936年に開催されたベルリンオリンピックの記録映画を監督したレニ・リーフェンシュタールという女性にインタビューを試みるところから話が始まり、その後の大部分は、ベルリンオリンピックにおける日本選手が、当時、どのような環境で練習を行い、試合に臨んでいたか(物質的に、また精神的に)、また、その競技を始めるきっかけなどについて、とりわけ当時、注目を集めていた選手を中心に書かれています。
私がオリンピックを見始めたのは、1984年のロサンゼルスオリンピックからで、その頃には、すでに陸上競技において日本選手が活躍できる種目は少なかったため、なんとなくそういうものなんだと思い続けていましたが、ベルリンオリンピックの頃には、日本人が長距離のほか、短距離走や跳躍種目において金メダルを期待されるほどの実力を持つ選手が多数いたことを知り、とても興味深く本を読みました。
最後は、再び、レニ・リーフェンシュタールへのインタビューに戻り、ヒトラーとの関わりや、映画製作についてのディテールなどの質問と、その回答、そして、その回答に対する沢木さんなりの考察が記されています。
全体的な構成としては、どことなく「檀」と似ていて、小説と言えば小説だし、ルポと言えばルポだしという本です。それにしても、こんなに昔の出来事を、これほど詳細に調べるには、どれだけの資料を集めたのかということが気になります。資料集めは作家だけが行うわけではないのかもしれませんが、その全てに目を通して、小説に仕上げていくという労力を考えただけでも、自分には小説は書けないなぁと思います。
そして、昨日、普段は見ることが少ないテレビ欄を見ていて、たまたま「沢木耕太郎 思索紀行 キャパへの道」という番組が放送されることを知り、「おっ、ラッキー!」と、その番組を観ました。こちらはロバート・キャパという戦場カメラマンと、その出世作であり代表作である「崩れ落ちる兵士」という一枚の写真の謎に迫る内容で、沢木さん自らが、キャパとその作品のゆかりの地に赴き取材されていました。単なる伝記にとどまらないところが小説家でもある沢木さんらしいなぁと思いました。この番組の内容は、先月発売された「キャパの十字架」という作品に含まれているようですので、番組を見逃した方は、この作品を読んでみてはいかがでしょうか。私も読みたくなりました。