池井戸さんの小説というと、半沢直樹のシリーズであったり、鉄の骨や空飛ぶタイヤなど、テーマとしてはちょっと硬いイメージがあり、それだけに文章にも緊張感があるものと思い込んでいたのですが、この小説は、かなりタイプが違いました。主人公は、日本の総理大臣で、登場する人物は、その周りの政治家や秘書、そして、その家族なのですが、皆、どこか間が抜けていて、憎めないキャラクターばかりです。鉄の骨が名古屋市営地下鉄建設時の談合事件であったり、空飛ぶタイヤが三菱自動車のリコール隠しを題材にしていたように、この小説でも、実在の人物をモデルにしていて、漢字の読み間違えを連発する首相や、酩酊状態でインタビューに応じる大臣がコミカルに描かれていて、「あぁ、あの人を皮肉っているのか」というのがわかります。全体を通して、ギャグ漫画のような軽いノリで描かれてはいますが、テーマとしては、私利私欲に走る政治家に対する不満や、今で言うところの「文春砲」で騒ぎ立てるマスコミへの批判であったり重い内容です。軽いノリにしたのは、もしかしたら、若い世代にも読んで貰うために読み易い表現にしたのかなぁとか、あまりにリアルになってしまうことを避けたのかなぁと思ったのですが、どうなんでしょうね。最近では、政治家のほか、芸能人やスポーツ選手まで、そのプライベートが世間にさらされてしまい、謝罪会見に追い込まれ、そこで、まるでイジメのようにマスコミにボコボコに叩かれることが増えていますが、本来は当人同士の問題であるはずなのに本当に気の毒だなぁと思います。この小説は、2010年に刊行されたそうですが、10年を経て、ますますヘンな国になってしまったなぁと思うのは私だけでしょうか・・・。
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