なかなか面白い小説でした。壁画修復と聞くと、何年か前に素人のおばあちゃんが勝手にキリストの壁画を修復(?)し、とんでもないことになった件を思い出しますが、それを職業としている人がいるんですね。実際にこの小説の主人公のような仕事をしている日本人の方がいらっしゃるそうで、この小説を書く際に、その方からいろいろ修復家という仕事について教えて貰ったということが最後に謝辞として書かれていました。
この小説の主人公は、フランスで壁画修復を生業としている日本人です。修復師と言っても、修復するばかりではなく、「この壁の下地には壁画が描かれているかもしれないので、その調査をして欲しい」という依頼もあるようです。それらの依頼に応じて、数ヶ月から数年という単位で、その依頼先で仕事をし、そしてまた次の依頼先へ赴くという生活を、この主人公は送っています。そして、その滞在先で知り合った人々との人間模様が描かれています。
主人公は、もともと料理人だったのですが、あることをきっかけに料理人を辞め修復家として生きるようになります。その過去の出来事に悩み苦しむ彼に、同じく悩みを抱える人は同じにおいを感じとるのか、他の人には話せないことも、彼には話せるのです。彼はそれに対して何かが出来るわけではありませんが、なぜか人々に安らぎを与えることが出来ます。読み進めるうちに、この主人公に好感を持つようになって行きます。ちょっと切ない短編小説集といった感じでした。
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